1 著作権法上の「引用」か?
DeNAキュレーションメディア問題の2つ目の問題点は,
他のサイトからの,画像や文章の転載が,著作権法に違反して違法となるのではないか?
という点です。
文章や画像を転載するときには,著作権法第32条で「引用」することは許されています。
「引用」するときには「公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」とされています。
そこで,DeNAの記事転載が,
・公正な慣行に合致していたかどうか?
・報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内であったかどうか?
という点が問題となってきます。
公正な慣行に合致していたかどうか?
記事を引用する場合には,通常,主従の区別をつける,という作業が必要となってきます。
主従の区別をつけるとは,たとえば,
段落分けをして「引用開始」………「引用終了」というように,引用する部分を引用しているということがわかるようにするとか
段落をわけて,地の文とフォントを変更して,引用の最後に著作権者の名前を書くとか,
引用部分を,下記のように点線で囲むとか
—————————-
引用している部分
—————————-
あるいは,簡便におこなうのであれば,「」をつけて,
この点について,〇〇氏は〇〇ブログにおいて「〇〇〇〇」と記載している。
というように書き分ける,という方法もあります。
DeNAキュレーションメディアの文章で,このような「正しい引用」をみたことは,ほとんどないように思います。
写真では「引用」という言葉を書いていたことはあるようですが。
ですので,DeNAキュレーションメディアが,他のサイトの記事転載をするときに,「正しい引用」をしておらず,たんに他のサイトからコピーペーストした記事を,まるで,自分のサイトでの地の文として記載していたとすれば,著作権法に違反する可能性はあります。
報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内であったかどうか?
もし,「引用」の手続的な面では正当な範囲であったとしても,次に,引用の正当な目的があったのか,ということが問題となってきます。
DeNAキュレーションメディアは,そもそも,サイトを自社の利益追及のために運営しているわけですから,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」であったのかどうかは,きわめて疑わしいところがあります。
通常は,「引用の目的」は,あまり追及されることは少ないのですが,今回のように大規模で組織的におこなっているサイトの場合には,「引用の目的」が厳しく追及されるという可能性もあると思います。
2 独自の著作物か?
DeNAキュレーションメディア側としては,
「自社サイトの文章は,うちの会社の独自の著作物である」
と主張して,他人の著作権侵害ではなく,違法ではない,と主張するかもしれません。
キュレーションメディアは,そもそも,他のサイトの転載をしている「まとめサイト」なので,「独自の著作物」だという主張には疑問もあります。
ただ,ネット社会においては,他人の文章を読んで,それに触発されて記事を書くということは,普通におこなわれていることでもあります。
たとえば新聞記事などは,記者が他の新聞記事を読んで,自社がまだ報道していないニュースを発見すれば,
「落とした!」
(新聞の業界では,他の新聞が書いているニュースを自分の会社が書いていないと,ニュースに漏れがあった,として社内で問題になります。こういうことを「落とした」あるいは「特オチ」と言ったりします。)
と叫んで,似たようなニュース記事を書くことは,日常茶飯事です。
新聞の場合には,一応は,記者がニュースソースに電話して確認は取りますが,基本的には,他社のマネ記事です。
ですから,「他人の著作物のマネが全く許されない」とすれば,新聞もテレビ・ニュースも,ブログ記事も,ほとんど全てのメディアは存在が許されなくなります。
ここで考えなければならないのは,
許されるマネなのか?
許されないマネなのか?
という点になります。
3 「許されないマネ」とは?
許されないマネの代表例は,デッドコピーです。
つまり,完全な丸写しです。
デッドコピーは,正当な「引用」ではないかぎり,著作権法上違法です。
また,写真は,その性質上,デッドコピーになることが多いので,
正当な「引用」ではないかぎり違法になることが多いです。
ウェブ上での情報によれば,DeNAキュレーションメディア側は,アルバイトの学生に,「マニュアル」を渡して,他のサイトから記事を転載させていた,とのことです。
おそらく,デッドコピーをすると,さすがにまずいという考えで,デッドコピーにはならないようにする「マニュアル」だったのでしょう。
そうだとすると,
できあがった成果物は,多少は元の記事とは異なるかもしれないが,それは「マニュアル」による定型処理の結果にすぎないのであって,
本質的にはデッドコピーだ,というケースが多いのではないか,と思います。
「ほとんどデッドコピー」という事例が多ければ,DeNAキュレーションメディアは,著作権法上,違法ということになる可能性もあると思います。
DeNAキュレーションメディアが著作権法上の違法となるとかならないかは,現段階では,わかりません。
しかし,ここで,より重要なのは,違法となるかどうか,という点ではなく,より大きな視点だと思います。
より大きな視点でみれば,自社の行為が本質的にはデッドコピーとなることを知りながら,デッドコピーとなることを避けるために定型的なマニュアルをつくって,大量の人員を動員して記事を作成していた,ということですから,「違法スレスレ」であることには違いなと思います。
「違法スレスレ」を組織的に大量におこなって利益を上げている企業が,社会で許されるかどうかといえば,やはり,許されないでしょう。
結果的に「違法であったか,否か」ということよりも,「違法スレスレ」の行為を故意におこなっていた,ということの方が,本質的には問題であると思います。
少なくとも,東証一部上場企業としては,「してはならないことをした」ということには違いありません。
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