前回までお話をしていた,破綻したN銀行の取締役の責任について整理回収機構から訴えられていた事件は最終的に和解で決着となりました。
N銀行の事件が終了して息つく暇もなく,次の事件が私を待っていました。
事務所の経営弁護士であるO弁護士に呼ばれました。
「吉田くん,出張に行ってくれ」
「どこですか?東京ですか?」
「タイだ」
「はあ……?」
突然の話で驚きましたが,出張先は東南アジアのタイ王国でした。
事務所の顧問先である,W社という会社がタイにつくった海外子会社の工場で,現地の社長夫婦が横領と思われる事件を起こした,との知らせでした。
現地の社長であったA氏の妻はタイの警察に逮捕され,その後,A氏自身は日本に帰国して,福岡の実家に逃げ帰っている,ということでした。
なにか,ドラマか映画のお芝居の設定のようなお話で,実感がつかめません。
福岡にあるW社本社では,タイの工場でなにが起こったのか,よくわからなかったため,当方の事務所に実態調査を求めてきたようでした。
「なにをしたらいいのか,よくわからないですが…」
と,とまどう私に,O弁護士は,
「はっはっ,安心しろ。よくわからないのは,私も同じだ。まあ,とにかく,タイで調査してくれたまえ。あとはまかせた。では!」
と言って,O弁護士は夜の街に,飲みに出かけました。
事務所の経営者弁護士のうち,前号で紹介したT弁護士は緻密な思考をする人であり、O弁護士は,逆に,豪快肌の方でした。
そういうわけで,次回から,話の舞台は,タイ王国になります。(つづく…)
交通事故の損害賠償の「基準」
交通事故が発生した場合,被害者は加害者に対して損害賠償を請求します。
交通事故に関する損害賠償請求の金額を算定するときには,損害賠償金額を計算する基準というものがあります。
基準は,なんのためにあるのでしょうか。
交通事故の事件は,とにかく大量に発生しています。統計データをみると,平成27年中をみると,交通事故は全国で約53万7000件発生し,約4000人が死亡し,約66万6000人の人がケガをしています。
これだけ大量の事故が発生するので,ある程度,画一的な「基準」にしたがった処理をすることで,平等かつ迅速な被害者の救済を実現しているのです。
そして,損害賠償金額の「基準」には,①自賠責基準,②任意保険基準,③裁判基準,という3つの基準があります。
ここで,多くの方は,
「基準というものは,普通は一つではないのか?」
という疑問をもたれるかもしれません。
私も,その疑問はよくわかります。
ただ,昭和40年代に交通事故が激増していた時代からの歴史的な事情から,3つの基準が同時に存在しています。
① 自賠責基準は,交通事故に遭った人に対する最低限の補償を確保するという目的ですので3つの基準の中では一番低い基準です。
② 任意保険基準とは,保険会社が独自に作成している基準です。自賠責基準より高く,裁判基準より低い場合が多いです。
③ 裁判基準とは,過去の判例などを参考にした基準です。弁護士もこの基準によって請求することが多いです。3つの基準の中では,一番高い基準です。
世の中の全員が裁判基準で示談をしてくれれば一番良いのですが,現実には,理想どおりにはなっていないのが実状です。
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