新型コロナ感染防止のために、店舗を閉鎖する場合、従業員を解雇できるか?

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社長は、会社を存続させるために、厳しい判断をしないといけない場合があります。

新型コロナ感染防止のために、当面、店舗を休業しないといけない場合もあります。

また、当面の休業だけではなく、そのまま、店舗を閉鎖してしまわないといけないという場合もあります。

店舗を閉鎖した場合、そこで働いていた従業員を解雇することができるのかどうか、という問題があります。

ただ、ここで、社長が、安易に従業員を「解雇」としてしまうと、大変な法律問題に直面してしまう可能性があります。

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安易な「解雇」をすると、不当解雇として裁判を起こされる!

あまり深く考えずに、従業員を「解雇」してしまった場合、不当解雇として裁判を起こされる可能性があります。

そして、裁判所は、不当解雇という裁判については、経営者にとって、厳しい判断をすることが多いのです。

基本的に、裁判所の価値観は、解雇=不当解雇が原則だと考えてください。

経営者側は、積極的に、「この解雇は不当ではない」ということを証明しないかぎり、何百万円という巨額の損害賠償をしなければならないことになります。

「新型コロナ感染防止のために店舗を閉鎖したから、解雇したのだ」というだけでは、裁判所は、全く理解してくれません。

逆に、「解雇以外の方法は無かったのですか?」

「他の店舗で従業員の仕事を見つけることはできなかったのですか?」

「解雇を避けるために、会社の資産を売却することはできなかったのですか?」ということを、しつこく質問されると考えてください。

したがって、解雇は、なるべく避けるべきです。

 

ビジネス

解雇ではなく「自主退職」に持ち込むことはできないか?

しかしながら、ここで人件費を削減しなければ、会社の体力が持たない、というときもあります。

ここで、弁護士としてのアドバイスがあたます。

「解雇」ではなく、「自主退職」に持ち込むことを考えてほしい、ということです。

自主退職とは、従業員が自主的に、退職するということです。

そして、社長は、従業員に対して、「自主的に退職をしてくれないか」という説得をすることはできるのです。

これを一般に「退職勧奨」と言います。

よく、多くの方から「退職して欲しいと要求するなら、それは、解雇ではないのか?」という質問を受けます。

社長の感覚からすると、解雇と退職勧奨は、同じようなものだと思われるかもしれません。

しかしながら、じつは、法律的には、解雇と退職勧奨は、全く違うことです。

 

大きな違いは、「不当解雇」として裁判に訴えられる可能性があるかどうか、の違いです。

解雇すると、不当解雇として裁判を訴えられる可能性があります。

一方、退職勧奨は、その時点では解雇をしていませんから、不当解雇にはなりません。

これは、非常に大きな違いです。

ですので、どうしても人員整理の必要がある場合には、社長は、まず、従業員と話し合って、「自主的に辞めてほしい」という説得をするべきです。

話し合いの結果、従業員が自主的に退職したのであれば、それは「自主退職」になります。

自主退職の場合には、従業員は、自分の意思で辞めたのですから、不当解雇ではないので裁判に訴えることはできません。

これほど、「解雇」と「自主退職」は大きく違うのです。

社長は、会社がピンチであって、人員整理の必要性があるというときほど、「解雇」ではなく、「自主退職」に持ち込むようにしてください。

 

なお、退職してほしいという説得をするとしても、自主退職は、最終的には従業員が自主的に退職すると決める必要があります。

ですから、たとえば、脅迫したり、強要するようなことは、絶対におこなわないでください。

強要したうえでの退職となると、違法となることがあります。

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「自主退職」の書面を作ることを絶対に忘れないようにしてください。

従業員に、自主退職をすることをOKしてもらった場合には、絶対に忘れずに、自主退職の書面をつくってください。

自主退職の書面を作らないと、後で、「退職する気は無かった」「本当は解雇された。自主退職では無かった」と言われたりすることがあります。

簡単な書面ではありますが、自主退職の書面を一つ作っておくだけで、「自主退職であった」ということを、争いの無い事実にすることができるのです。

一般には、自主退職の場合には、従業員の方から「退職届」を出してもらうことになります。

→退職届の書面  記載例はコチラから

雇用保険の離職証明書と男性

従業員から「会社都合退職」にして欲しいと言われたら?

 

従業員の方から「退職についてはわかりました。ただ、失業保険を早くもらいたいので、会社都合退職にしてほしい」と言われた場合には、どうしたらいいでしょうか。

従業員が退職については同意はしてくれているのですから、社長としても、積極的に考えていいと思います。

失業保険は、国が給付してくれるものですから、会社が困るわけでもありません。

 

ただし、この場合も「従業員が退職については同意した」ということを、きちんと書面にしておく必要があります。

従業員に「会社都合の退職とすることについて同意しました。退職について異議を述べることはありません」という書面を作ってもらえば、問題はありません。

ここで、「会社都合退職ということは、解雇ではないのですか?」という質問を受けることもあります。

しかしながら、会社都合退職としたからといって、解雇だとは限りません。

「会社都合による退職だが、退職については、会社と従業員が合意した」というケースも十分にあり得るのです。

こういう場合を一般に「合意退職」と言います。

 

従業員が自分から進んで退職したわけではありませんから、自主退職ではありませんが、会社と従業員が合意のうえで退職したのであれば、これは、解雇ではありません。

したがって、不当解雇として訴えられることはありません。

 

ですから、「合意退職」であれば、社長としても、協力してよいと思います。

もちろん、「会社都合だが合意退職である」という書面も、作っておくべきです。

→「会社都合の合意退職」の書面  記載例はコチラから

怒り・女性・ブルーバック

感情的な対立を作らないことが大事

ところで、元従業員が、「不当解雇」として裁判に訴えてくる理由はなんでしょうか?

お金がほしいからでしょうか?

もちろん、お金が欲しくない人はいないでしょう。

しかしながら、お金が欲しいからといって、誰もが全員、裁判を起こすわけではありません。

裁判を起こすというのは、手間も大変ですし、時間だって、相当にかかります。

弁護士に依頼する費用だって必要です。

正直いって、裁判をする時間と労力があるならば、他の仕事をさっさと見つけるように努力する方が、金銭面では、割がいいと思います。

弁護士としての経験からいえば、

不当解雇の裁判を起こす人は、会社に対する「怒り」が原動力になっている

と思います。

 

経営者が、従業員と感情的な対立を起こしてしまうと、従業員としては、「裁判をするのにお金がかかってもいい、損をしてもいい、とにかく、この怒りを表現するために裁判をしたい!」というように、メラメラと燃え上がってしまうのです。

こういうふうに、本気で「損をしてもいい!とにかく復讐をしたい!」という気持ちで向かってくる人を、軽く見てはいけないと思います。

まさに、「一寸の虫にも五分の魂」というものです。

一個人だからといって、あなどることはできません。

くれぐれも、退職勧奨をおこなう場合には、従業員と感情的な対立を引き起こさないように注意してください。

 

その逆に、従業員に愛されている経営者は、相当に無茶な人員整理をおこなっても、「不当解雇」の裁判を起こされないのです。

もちろん、従業員を退職させるわけですから、従業員の方だって、もちろん不満です。

しかし、不満だということと、「怒り」とは違います。

従業員は、不満ではあっても、

「社長は、自分を今まで大事にしてくれた。今回は、しょうがないか…」

「社長も大変なんだろう。自分も大変だけど、社長が無理だと言うならしょうがない」

「この会社の経営が大変なことはよくわかっている。どうせ、そのうち、潰れるんだから、早めに辞められてラッキーだ」

というように、「怒り」をもって盛り上がるのではなく、あきらめたり、自分から見切りをつけてくれるケースの方が良いのです。

 

誰でもが「不当解雇」の裁判を喜んで起こすわけではありません。

余分な「怒り」を引き起こさずに、自主退職という結果を達成することが、人員整理をせざるを得ない状況下での、社長の力量です。

 

怒らせずに、あきらめてもらうのが、上手な交渉

たとえば、退職してほしい従業員に

「おまえは無能だから、うちには必要ない」

とか

「おまえみたいなバカはクビだ!」

というような、相手の人格を傷つけるような言葉で解雇をするのは、全くのダメ経営者です。

全く無意味な感情対立を引き起こしてしまうだけです。

そして、「怒り」を持って立ち上がるとき、人間というものは、普段の3倍、5倍、という強大なチカラを発揮するものなのです。

このことが分からないのであれば、経営者としては失格です。

 

退職の交渉が上手な社長は、むしろ、

「うちが経済的に苦しいのは、よく分かってるでしょう…このまま、うちにいても、いいこと無いよね…」

「もう、お店をたたもうと思っているんだ。給料も、いつまで払えるかわかないし。早めに失業保険もらった方がいいんじゃないか?」

というような感じで、「げんなり」させる方向、従業員が「自主的にあきらめる」方向にもっていきます。

その方が、会社も、従業員も、良い方向で、新しい人生を歩めることが多いのです。

 

なお、「もう、お店をたたもうと思っている…」という殺し文句を、使い続けて、そろそろ10年、いまだにしぶとく、生き残っている、名物社長を知っています。

経営者というものは、そういうふうに、態度は紳士的ながらも、しぶとく生き残るものが強い、と思います。

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この記事を書いた人

yoshida

香川県高松市の弁護士 吉田泰郎法律事務所です。JR高松駅徒歩5分。あなたが話しやすい弁護士をめざしています。

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