企業の活動を終了させる手続きには、大きく分けて、「廃業」と「倒産」があります。
この2つは、大きく異なるものです。
どのように異なるかを、弁護士が解説します。
1つ目の違い……裁判所が関与するかどうか?
「廃業」は、経営者が自主的におこなう手続きです。
自主的に、従業員と雇用の終了について話をつけたり、取引先との間において取引関係の終了について話をつけます。
最後に、株主総会を開催して、「会社を清算します」という報告をおこないます。
その報告が終了したら、会社を解散させる登記をおこないます。
これにより、会社が消滅することになります。
ですので、最初から最後まで、経営者が自分の行動によって完結させることができます。
一方で、倒産の場合には、裁判所が関与することになります。
たとえば、会社の破産の場合には、経営者が弁護士に依頼して、破産申立書という書類を作成して、裁判所に提出します。
申立を受けた裁判所は、「破産開始決定」をおこないます。これにより、その会社を管理するのは、裁判所ということになります。そして、裁判所によって、破産管財人が選任されます。
破産管財人が、その会社の財産を売却して現金をつくり、会社の債権者に分配することになります。
会社の財産を債権者に分配し終えたら、破産手続きが終了します。
破産手続き終了によって、会社は消滅することになります。
まとめ
このように、「廃業」の場合には、経営者が主導して、会社を消滅させることができます。
一方で、「倒産」の場合には、裁判所が関与して、破産手続きをおこない、会社を消滅させることになります。
2つ目の違い……借金が財産より多いかどうか?
「廃業」の場合には、銀行や取引先に対して、返すべきお金を全部返すことになります。
ですので、少なくとも、会社の現金預金によって、借金や買掛金を全部返すことができるという余裕が必要です。
たとえば、会社の現金預金が3億円あり、一方で、会社の借金が5千万円という状態です。
これなら、会社は借金を全部支払っても、なお余裕があるということになります。
また、従業員を退職させるときには、退職金制度をつくっている場合には、退職金を支払う必要があります。
また、従業員の大半を退職させた後にも、在庫品の処分や経理関係の書類を作成するために、ごく少数の従業員を残す必要があります。これらの、最後まで残す従業員の給料も考えておく必要があります。
ただ、廃業の場合には、それなりに会社に財産が残っていますので、計画を立てて、従業員や取引先、銀行にお金を返していけることになります。
倒産の場合
一方で、「倒産」の場合には、会社の現金預金だけでは、会社の借金を返すことができません。
たとえば、会社の現金預金が1億円であり、会社の借金が5億円ある、そういう状態です。
会社の借金の方が多いということは、経営者の自主的な行動では、会社を解散させることができない、ということになります。
また、借金の方が多いという状況で、「会社をやめます!」と宣言した場合には、会社の債権者は、自分の債権を先に返済してくれと、我先に請求してくることになります。
そうすると、いわゆる「取付騒ぎ」ということになり、混乱が発生します。
ですので、こういう「借金の方が多い」というケースの場合には、裁判所に破産事件として持ち込んで、裁判所の権威のもとに、債権者に公平に借金を弁済することになるのです。
3つ目の違い ……オーナーにお金が残るのかどうか?
廃業の場合には、会社の方が財産が残っている状態で手続きを始めることになります。
したがって、従業員の退職金、銀行への返済を終えたあとでも、会社には、事業資金が残ることになります。
会社に資金が残った状態で会社を清算すると、「残余財産の分配」ということで、会社に残った財産を会社の株主(オーナー)に対して分配することができます。
多くの中小企業では、会社の株主=経営者、だと思います。
ですので、経営者個人にお金が残ると考えてよいです。
倒産の場合
倒産の場合には、会社の財産よりも、借金の方が多い状態で、破産手続きを開始することになります。
この場合には、裁判所が破産管財人を選任して、会社に残っている財産を売却することになります。
会社の土地、建物、などが残っている場合には、そういうものを全部売却します。
売却した後に現金を回収できれば、その現金を会社の債権者に公平に分配します。
もともと、借金の方が多い状態ですので、会社の財産は、全て、債権者への返済にあてることになります。
通常、会社の株主(オーナー)には、1円も残りません。
まとめ
こういうように、廃業の場合には、会社のオーナーにお金が残る。
一方で、倒産の場合には、会社のオーナーには、お金は残らない。
この点が違いになります。
4つ目の違い…精神的な余裕が違う
廃業の場合には、他人に説明するときに、「会社をやめた」と言うことができます。
つまり、自分から自主的に「やめた」ということです。
自主的な「廃業」には、精神的な余裕があるのです。
先のことまで考えて、「この会社は、このまま10年は、持たないだろうなあ。まだしも、会社にお金が残っている、今の状態でやめようか」という、「一つの経営判断として」会社を廃業したということです。
もともと、株式会社というものは、法律的には、永続するものではなく、いつかは終了するものとされています。
永遠に続くようなビジネスは、世の中にはありません。
たとえば、昔は、「写真屋さん」というものがありました。
街角には一つくらい、「フィルムから写真を現像する」という技術を仕事にしている人がいたのです。
しかし、世の中が、デジタル・カメラの時代になると、写真を現像しなくても、写真を見ることができるようになってきました。
そのため、「フィルムから写真を現像する」という仕事は、急速に減ってきました。
今は、写真を現像する仕事というものは、街角からは消えました。
「写真を現像する」という仕事は、現在では、家電量販店で自動販売機で現像するか、インターネットで注文して、自宅に配達してもらうようになっています。
こういうふうに、全てのビジネスには「終わり」というものがあります。
ですから、自主的な「廃業」をするということは、一つのビジネスに見切りをつけるということです。
早い「廃業」は、むしろ、積極的な知性があるから、できることです。
倒産の場合
一方で、「倒産」には、暗いイメージがつきまといます。
「倒産」は、借金の方が多い状態ですから、どうしても、経営的には失敗だったということになります。
そして、借金が多いと、長期的な経営よりも「目の前の借金の返済」のことしか考えられなくなります。
そのため、「借金を返済するための借金」をすることになってしまいます。
ただ、赤字会社の場合には、「来月の借金をどうやって返済するのか」というテーマよりも、「そもそも、このビジネスを続けるべきなのかどうか」という大きな視点からの判断が必要なことが多いのです。
ただ、「倒産」するまでは、精神的にツライことが多いのですが、破産などの手続きを使って、実際に倒産してしまった後は、気が楽になります。
「もう、来月の資金繰りを考えなくて良いと思うと、ものすごく、気が楽になりました」
と言う方は、すごく多いのです。
というか、ほぼ全員が、「気が楽になった」と言います。
まとめ
精神的に追い詰められる「倒産」よりは、精神的に余裕をもって、自主的に「廃業」をすることが、望ましい。
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