エタニットパイプとは
エタニットパイプとは,セメント,珪砂,石綿(アスベスト),水を材料として製造されるパイプである。
エタニットパイプは,主として上水道や農業用水の導管(径50~800ミリメートル)として使用された。
安価であるため,戦後多用されたが石綿の発がん性が問題となって以降使用が控えられ,既存の上水道のエタニットパイプについては埋め殺して他のパイプに切り替える作業が行われている。
エタニットパイプ製造の為には,石綿(アスベスト)が必要不可欠である。
コンクリートは圧縮する力に対しては強い強度があるが,引っ張る力に対しては脆弱である。引っ張る力に対する強度を補うため,コンクリートの建物では,鉄筋や鉄骨が入れられている。
コンクリートでパイプを作る場合も同様に,何も入れないでパイプを作れば,簡単に折れるなどして,実用に耐えない。
そのため,コンクリートでパイプをつくる際には,コンクリートの建物における,鉄筋や鉄骨の役割に相当する,引っ張る力に耐えるためのものとして石綿(アスベスト)が利用された。
石綿(アスベスト)は,細い鉱物性繊維であり,これをほぐしたものは綿上であって,セメントと混合し易く,かつ,引っ張る力に対する強度がある為,石綿(アスベスト)を大量に混合されていた。
製造方法の概要
エタニットパイプの製造工程の概要は以下のとおりである
① セメント,珪砂,石綿(アスベスト),水を混合する。
② 金属製の細長い丸い棒に①の混合物を薄く塗りつけることを繰り返す
③ 厚みが一定の段階にまでなったら金属製の棒を引き抜く
④ コンクリートが完全に固まって強度が出るよう養生をする
⑤ できたパイプの両端を削って,パイプとパイプが接続できるように処理して仕上げる。
上記製造工程では,どこでも大量のアスベスト粉じんが飛散するが,特に大量の粉じんが発生するのが①と⑤の工程である。
粉じんは,珪砂の粉じんと石綿(アスベスト)の粉じんが混合したものであるが,①と⑤の作業に従事する作業者は常時石綿(アスベスト)の粉じんを直接大量吸引する危険にさらされる。
また,上記①ないし⑤の製造工程のみならず,製造工程と不可分の運搬や機械の補修等の様々な関連作業の工程においても石綿(アスベスト)の粉じんが発生する。
①,⑤の工程以外の作業に従事する者も,工場や倉庫等に飛散し,空気中を漂う石綿粉じんを吸引することを免れえない。
粉じん発生状況
エタニットパイプ高松工場での、アスベストを含む粉じんの発生状況の詳細は次のとおりである。
運搬作業
石綿は,60ないし90キログラムの袋詰めで工場に搬入されるが,その袋は麻袋であるため,石綿粉塵が透過する。
高松工場では,船から岸壁で荷揚げした麻袋をリフトで運搬していたが,パレットに載せて運搬するのは製造末期であり,リフトへの積み込み,倉庫での搬入,搬出等の作業は手作業で行われていた。
したがって,運搬作業中石綿粉じんが発生し,作業者はこれを吸引した。
石綿の解綿作業
石綿は,綿を圧縮して空気を抜いて体積を減らしたような状態で鉱石として採取される。これを綿状にほぐすのが解綿作業である。
作業は,石臼で鉱石を崩し,さらに,解綿機(クラッシャー)で綿状に戻すことが行われた。
解綿作業は,密閉した機械の中で行われることなく,また,防塵装置や集塵装置もなかったため,大量の石綿粉塵が飛散した。
石綿の運搬作業
工場の1階で解綿作業を終えた石綿は,3階に運搬され貯蔵される。
1階から3階に石綿を運送するのは,1階と3階を結ぶ管にブロアー(送風機)で空気を流し,この空気の流れに1階で石綿を投入して行われた。
3階では布製の大きな袋で石綿が運ばれる空気を受け止めていた。
石綿のうち大きな粒子のものは布袋に漉しとられてとどまるが,粒子の小さい石綿粉じんは空気とともに布袋を通過して,工場内の空気に拡散した。
この粒子の小さい石綿粉じんは,肺の奥まで到達し易く,生命・身体に対する危険性の大きなものである。
3階で石綿を布袋で受け取る作業も人力で行われたため,3階では,壁も見えないほどに石綿粉じんが立ち込め,作業従事者は大量の石綿粉じんを吸引した。また工場内で勤務する労働者も飛散する石綿粉じんを吸引した。
石綿の貯蔵,計量作業
石綿の貯蔵,計量は,3階に石綿を貯めておき,作業者がスコップでこれをかごに詰めて,かごの数で計量し,2階から投入の合図があると3階のシュート(滑り台ないし管)入口にかごを投入することを行っていた。
上記貯蔵作業,計量作業の際に散水するなどの飛散防止措置は取られず集塵装置も存在しなかった。
したがって,上記貯蔵作業や計量作業の際にも,石綿粉じんが大量に飛散した
なお,高松工場において,ホッパーに貯めた原料を,付帯の計量器で必要な量を計量して,製造装置に流し込むという,近代的工場でよくみられる設備が導入されたのは,製造末期の昭和42年ごろないし昭和43年ごろと推定される。
混合作業
工場の2階には,石綿,コンクリート,珪砂,水を混合するためのミキサーが設置されていた。
ミキサーに水がはられてから,石綿の投入が行われていたが,その投入作業は上記のとおり,3階からシュートで石綿を落として行われるもので,その落差は,2から3メートルあった。
このため,石綿が落下する際及び水面にあたる際に,石綿粉じんが発生した。
仕上げ作業
コンクリートの養生が終わり,パイプが固まった後に,パイプの両端を仕上げる作業が行われた。その作業は,パイプの両端を切断する作業旋盤で切削加工する作業等であった。
上記作業に伴い,珪酸分の粉じんと石綿の粉じんが発生した。仕上げ用の旋盤については集塵機が設置されていたが,それ以外には集塵機は設置されていなかった。
このため,仕上げ作業においても,珪酸分の粉じんと石綿の粉じんが発生した。
保守作業
保守作業とは,工場内の生産設備が正常に稼働できる状態におくための,維持,管理,調整,また,故障や支障が生じた場合の補修,さらに,機械の入れ替え等の作業である。
これらの保守作業を行う場合,工場内のすべての箇所に,前掲アないしキの各作業に起因して発生した石綿が堆積しており,保守作業を行う際には,これらの粉じんを箒や刷毛などで払う等して除去する必要があった。
したがって保守作業の際には,工場内に浮遊している粉じんを他の工員と同様に吸引するだけでなく,大量の粉じんを新たに舞い上げてこれを吸引していた。
まとめ
エタニットパイプ高松工場では、このように、工場の製造工程において、アスベストを大量に発生させていました。
そのため、従業員にアスベスト被害を発生させました。
このアスベスト被害について、国が国家賠償請求という制度をつくって、被害救済をおこなっています。
自分、あるいは、自分の親族がアスベスト被害を受けて発症している場合には、弁護士にご相談ください。
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