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名前・地名以外の抽象的な言葉から事務所の名称を付ける

【注意】本記事において事務所の名称についてさまざまな評価をしていますが特定の事務所の名前に否定的な評価をする意図は全くありません。

名前・地名以外の抽象的な名称からの命名も、最近では例が多くなってきている。
事務所の理念や、代表者がアピールしたいイメージが名前に込められていることが多い。
ただ、やはり、抽象的な言葉から事務所の名称を付けるときには、メリットとデメリットがあるので、よく考える必要がある。

メリット1 名前が短くなる

吉田としては、抽象的な言葉を事務所名に使用するメリットの大半は、名前が短くなることではないかと思う。

つまり、対等のパートナー制の事務所の場合、主要なパートナーが増加するたびに事務所の名前を追加しないといけなくなるのだ。

たとえば、吉田・斉藤・山本・佐藤 法律事務所(仮称)のように。

これを、「パートナーは事務所名に全員名前を出さないといけない」法則(仮称)というのである。

この法則の支配力は大変に強固であり、しばしば「おれの名前を事務所名に出せ」「出さない」ということが事務所の分裂の原因となることがある。

一方、この法則には致命的な弱点がある。

通常、連名のパートナー名が許容されるのは3つまでであり、4つは明らかに長すぎるのである。

対等のパートナー同士においては、「自分の名前を出すメリット」というよりは「他のパートナーが名前を出しているのに自分だけが名前を出せないという格差のデメリット」が関心事なのだ。

そこで、解決策として出されるのが

全員の名前を出すのが無理なら、いっそのこと、全員の名前を出さないということで平等化しよう

という「政治的妥協」という人類の知恵なのである。

これを「なんだ、小学生みたいな。馬鹿馬鹿しい」と思ってはならない。

たとえば、大企業でも

東京三菱UFJ銀行

という、日本一大きな銀行がある。

この銀行は、東京銀行、三菱銀行、UFJ銀行という3つの銀行が合併したのでこういう名前になっている。

明らかに銀行の名前として長すぎる名前であるが、十年たっても何も解決されていない。

ここでも「パートナーは全員名前を出さないといけない」法則(仮称)という法則が働いているのだ。

銀行の都合によって、振込用紙に、毎回、こんな長い名前を書かされる一般ユーザーの迷惑を知ってほしいものだ。

このように、日本一の大銀行であっても、小学生のような見栄を解決できていないのが現実の人間社会というものである。

東京三菱UFJ銀行の事例と比較すれば、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が合併したときに、第一勧業・富士・日本興業銀行という名前ではなく、

みずほ銀行

に統一したのは英断であったといえる。

この、みずほ銀行の事例のように、「名前が長くことを避けるために抽象的な名前にする」というのは、明らかなメリットであろう。

 

メリット2? 事務所の理念やイメージを打ち出せる?

抽象的な言葉から事務所名をつけるときのメリットの第1は名前を短くできることであると述べた。

長い・短いよりも、「どういう名前か」が大事ではないの?

という疑問を持つ人もいると思う。

事務所の理念やイメージを、事務所の名前で打ち出せることがメリットではないか?という考えの方である。

ただ、吉田の経験上、事務所の名前に付けた「理念」やイメージを一般ユーザーが理解してくれて、その名前に魅力を感じてくれるか?といえば、そういうことはないと思う。

「お宅の事務所名が素晴らしかったから依頼に来ました!」という人には、いまだかつて会ったことがない。

たぶん、今後百年たっても会わないと思う。

 

デメリット1 失敗しやすい

その意味では「抽象的な言葉から、こういう言葉を付けるのが正解だ!」というテーマについては、そもそも正解が存在しないと思う。

ただ、おそらく、「事務所の名前に、こういう名前を付けてはいけない」というネガティブな方向でのテーマはあり得る。

抽象的な言葉を事務所名に付ける場合には、「こういう名前は付けてはいけない」という失敗を起こしやすいのだ。

抽象的な言葉を事務所名に付けるときには、特別に成功した事例はあまり見ない一方で、失敗した事例は多く見る。

それが、抽象的な言葉を事務所名に付けるときの一番の危険性である。

では、なにををどうすることが失敗であるのか?であるが、これについては、事務所名に

カタカナを使う場合

ひらがなを使う場合

漢字を使う場合

で、それぞれ異なるので、順番に論じていこう。

カタカナを使う場合
カタカナの法律事務所の名称には、なんとなく外国風な印象、日本的ではない印象がつきまとう。
とくに、弁護士が考えに考え抜いてつけた名前ほど、一般人が見ると意味不明に思えることが多い。

たとえば、ある弁護士が、考えに考えた末、自分の法律事務所に
クラージュ法律事務所
という名称を付けたとする。
誰も、その意味はわかるまい。

courage(クラージュ)は、フランス語で「勇気」という意味だそうだ。
この弁護士は、「依頼者に勇気をもってもらいたい。そうなれるように、依頼者をサポートしたい」という熱い思いをもっていたのだろう。


しかし、その熱き思いは他人には伝わらないと思われる。
何の説明もなく「クラージュ」が「フランス語で勇気という意味だ」とわかる人は、人口の0.1パーセントも存在しないに違いない。
言葉の意味がわからなければ、理解されるはずはないのである。

そういうふうに、英語以外の外国語から付けた名前は、ほぼ100パーセント理解されない。
また、英語から付けた名前であっても、80パーセントくらいの確率で理解されないであろう。
とくに高齢者の方の場合には100パーセント近く理解されない。

くれぐれも、カタカナで外国語を使って事務所の名前を付けることなかれ。

名前に込めたる熱き思いが、他人には伝わらないことが多い。

 

ひらがなを使う場合
やわらかいイメージがある。

漢字を使う場合と異なり、誤読の心配がないのは良いことだ。


ただ、歴史的には、「ひらがな」は漢字よりも文字としては低く見られてきた時期が長かったため、「ひらがな」だけで構成された法律事務所名は、権威性が乏しいように思われるかもしれない。

弁護士という仕事は、どちらかというと、人の上に立って人を導く立場の仕事であるので、どうしても、一定の権威性は必要なようにも思う。

その意味では、「ひらがな」は、弁護士業務と整合しない面もあるように思う。


もっとも、他の弁護士が避けるというまさにその理由があるからこそ、その逆もあり得るのかもしれない。

一般人に対する「親しみやすさ」を全面に出すために、そういう「ひらがな」の敷居の低さをあえて利用するということも一つの選択ではあるのだ。

 

別の観点からいえば、「ひらがな」には、抽象的な名前に共通する、うさんくささ、実体があるのかないのかよくわからない感がつきまとう。


また、法律事務所の名称として、ひらがなで書いた場合に、しっくりくる名称は数少ないために、同じ名前の法律事務所が乱立することが多い。
たとえば、
のぞみ法律事務所
きぼう法律事務所
などの名称は、異なる都道府県で複数見たことがある。

 

漢字
漢字は、なんとなく「本物感」がある。したがって、抽象的な名称のなかでは、「ややマシ」なところもある。


ただし、漢字を使う場合に注意するべき点が3つある。
1つは、キラキラネームは使うなかれ
1つは、発音が難しい漢字を使うなかれ
もう1つは、造語をするなかれ

という点である。

1,キラキラネームは使うなかれ

漢字は「意味」をあらわす文字である。
その一方、「音」は半分くらいしかあらわさない。
さらに、最近は、漢字の本来の読み方を無視して、自由気ままに発音させるという悪い風潮がある。
よく言うキラキラネームのように、どう考えてもそういうふうには読めないような名前を付けると、将来、その子は苦労することになるので絶対にやってはいけない。


それは法律事務所も同じである。
顧客のことを考えれば
普通、そういうふうに読めない漢字を事務所の名前に付けてはならない。


たとえば、
大海法律事務所(仮称)という名前の法律事務所があったとする。
普通に読んだら「たいかい」と読むのだが、「たいかい」だと「退会」のように聞こえてしまうので縁起が悪いと思って、
「よし、大海と書いて、オーシャンと読むことにしよう」
と考えるのは間違いである。


普通の顧客は「大海」をオーシャンとは発音するとは夢にも思わない。
また、法律事務所に行って「うちの事務所は、大海と書いてオーシャンと読んでください」と顧客に要求するのは、顧客に「気持ち悪い」と思われるだけである。
通常の顧客は、普通の読み方で読めない名前というものを嫌うものだ。
そういうわけで、いわゆるキラキラネーム的な名称は絶対にしてはならない。

2,発音が難しい漢字を使うなかれ

たとえば、
道標法律事務所
のような名前を一般人が聞いたらどう思うだろうか。

道標は「みちしるべ」という正しい読み方のある漢字である。

道に迷っている方に対して、正しい道を教えてあげる、道標。

まさに、それは弁護士の役割であろう。

大変に立派な名前である。

ただ、一般には、「道標」は発音が難しい漢字熟語だと思う。

おそらく、一般ユーザーは、
「なんと発音するのか?」
ということを最初に疑問に思うであろう。

道に迷うよりも早く、発音に迷うであろう。

 

弁護士というものは、自分で思っている以上に、一般の方には「こわい人」「怒りっぽい人」と思われている。

ごく普通の一般人というのは
「事務所の名前を発音できない、ということで弁護士さんに怒られたらイヤだから、電話をするのをやめよう」
と思って、弁護士に電話をすることをやめるものだ。

発音が難しい漢字を使うことは、一般ユーザーを遠ざけるものだと知れ。

 

3,造語をするなかれ

新しい事務所を作るときには、心も前向きとなり、クリエイティブとなっているので、
「新しいものを作り出したい!」
という気持ちになっていることが多い。
その意気は、とても良いものだと思われる。
しかしながら、そこで勢いあまって
「事務所の名前も、クリエイティブにしよう!」
と考えるようになると、少々困ったものである。

たとえば、
「人生には、幸運と勇気が必要だ!幸運と勇気があれば世界は開けるのだ!」
と考えて、
幸運と勇気を合わせて
幸勇
という造語を作ってしまい、法律事務所の名称を
幸勇法律事務所
としてしまうと、これは問題だ。
幸勇などという概念や言葉は、この世に存在しないものであり、作った本人以外には意味が不明な言葉である。

意味不明な名前をしている法律事務所は、気持ち悪いと思われて、顧客に敬遠されてしまうのである。

漢字は、世界にも希な造語能力に優れる文字だとされている。
何千年も前から使われていながら、新しい近代科学や、西洋文明に対応する言葉を容易に翻訳してしまえる、すばらしい文字である。

ただ、自分にしかわからない言葉、この世に存在しない言葉を、とりあえずは作ってしまえる、という無茶なことができてしまえるのも漢字なのである。

そこは注意して抑制するべきであろう。
決して、この世に存在しない言葉を発明して事務所の名称とするようなことはしてはならない。
その先には、顧客に敬遠される法律事務所への一本道がある。

事務所の名称に付ける漢字は、あくまで、一読して発音できて、意味がわかりやすい、既存の言葉、既存の名前にするべきである。