傾聴する
傾聴する,ということはコミュニケーションの基礎的技術であり,重要な技術です。
傾聴するというのは,たんに「聞く」ということではありません。
他人の話をぼーっと聞いている状態というのは,「傾聴」とは,全く異なります。
あえて定義付すれば,
「傾聴するとは,積極的に関心をもって,注意深く話を聞くこと」です。
でも,定義を言っただけでは,全く理解できないと思いますので,具体的に「傾聴する」という行動を説明します。
1,「傾聴する」ためには,相手の話し方,心の状態にペースを合わせること。
たとえば,相手が,ウキウキして話しているときには,自分もウキウキしている様子で話を聞くのです。
「えー,実際にはウキウキしていなくても,そうするんですかー?」
という疑問が出てくるかもしれませんが,そのとおりです。
実際にはウキウキしていなくても,そういう振りをするのです。
最初に言ったように,「傾聴」は技術です。
ですから,自分が本心でどう思っているかは,全く関係がありません。
一方,相手が重い感じで,重要な告白をしようとしているときであれば,こちらも,相手に合わせて,沈痛な表情で,重々しく話すのです。
弁護士になれば,たとえば,死亡事故の遺族と話すこともあれば,死刑判決を受けた人の家族と話すこともあります。
必要なときには,いつでも,重々しく,沈痛な態度をとらなければなりません。
これがプロの技術というものです。
2,「傾聴する」ためには,相手の話を一部,繰り返して反復すること
いわゆる「オウム返し」です。
最初は「そういうオウム返しは,礼を失しませんか?」
というふうに思うかもしれません。
でも,そんなことはありません。
相手の話の一部を,口に出して「オウム返し」することで,相手は,自分の話を相手がきちんと聞いてくれていると安心して信頼するようになるのです。
「うんうん」
と,うなずいているだけだと,
「本当に聞いてくれているのかなあ?」
と思って,不安に思うのです。
3 「傾聴する」ためには,相手の話をまとめたり,言い換える
「オウム返し」の発展形ですが,
もし相手の方が
「夫が,給料を家に入れなくて,しかも,稼いだお金を全部競馬につかってしまって,もう,生活費が足りないんですよ」
という話をしていたら,
「なるほど,ご主人さんが,家のことを考えてくれないのですね」
と,簡潔にまとめてみる。
そういうふうにまとめると,相手の方は
「そう!そうなのよ!」
と,勢いをつけて,会話に乗ってくれるのです。
また,たとえば,「会社の同僚が,もう,自分勝手になんでもかんでも進めてしまって大変なのよー」
という話であれば,
「なるほど,同僚の方が,ちょっと性格がワンマンな感じ,ということですね」
というように,他の言葉に置き換えてみる。
そうすると,相手の方は,より深く理解してくれていると考えて,積極的に話そうという気になってくれるのです。
4 「傾聴する」ということは積極的な行為であると認識する
いままで述べましたように,「傾聴する」という行為には,
相手の心の状態を理解して,それに合わせる
相手の会話の一部を「繰り返す」
相手の会話をまとめたり,言い換えたりする
という,きわめて積極的な行為です。
決して,「聞いていればいいんだろ」というような,受動的な行動ではないのです。
一生懸命に聞く,それが「傾聴する」ということなのです。