弁護修習の見るべきポイント3 和解の判断
たとえば,裁判で和解の話が進んできた。
この和解の話を依頼者にどう伝えるのか?
もし,弁護修習中に,そういう場面に遭遇したのであれば,とてもラッキーですね。
たとえば,裁判官から500万で和解の勧めがあった,という状況です。
弁護士は,この和解を有利だと考えているか?
有利ではないが,判決リスクを考えれば,やむなしと考えているのか?
不利だから和解しない,という選択肢か。
事件記録を一生懸命に読み込んでみて,自分としての判断を,指導弁護士に言ってみてください。
さて,指導弁護士は,あなたと同じ判断なのか,それとも,異なる判断なのか。同じ判断だとして,それにいたるまでの理由はどうか?
和解の判断というものは,判決を受けるよりも,ときには,高度な思考が必要とされるのです。
裁判所で和解の提案があったとして,それを依頼者にどう伝えるのか,ということも大きな問題です。
「裁判所で,こういう和解の提案がありました」
ということを伝えると,依頼者は,当然,こう聞いてきます。
「それで,先生は,この和解の提案を,どう考えるのですか?」
ここで,
「私の考えはありません」
と言うのは,たんなる伝書鳩です。
依頼者は,弁護士の「考え」を聞きたいのです。
すなわち,
「この和解を受け入れた方が得だと考えるのか」
「この和解は損だと考えるのか」
ということを,法律の専門家という立場から,「考え」を述べないといけません。
「考え」を述べずに,たんに裁判所が「こう言った」ということだけしか伝えないのは,伝書鳩ですから価値がないとみなされます。
当然,「考え」には理由が必要です。
「得なのか,損なのか」ということを,依頼者が納得できるような理由をもって説明しないといけません。
そして,弁護士の「考え」の大きな部分は,「判決の予測」です。
場合によっては
「これは,判決になった場合でも,和解より有利な判決になる可能性が高いから,和解しなくてもいいかもしれない。
ただし,確率は小さくても,和解をすれば,ここで裁判を確定できる,というメリットはあるかもしれない」
とか
「この裁判は,判決になった場合には,完全に負け判決になる可能性がある。それを考えると,不満であっても,和解を受け入れた方がよい」
とか,弁護士は,判決の予測を中心として,和解を受け入れるべきかどうかアドバイスをしなければなりません。
もちろん,これは高度な法的判断です。
判決予測ほど,難しいものはありません。
ただ,弁護士のアドバイスは,たんに「判決予測が当たるか当たらないか」というような,ウルトラクイズみたいなものでも,また,ないのです。
依頼者の状況から考えて,
「80パーセントくらいは勝ち判決になると思うが,20パーセントくらいは負け判決になるかもしれない。普通に考えれば強気に押してもいい場面だが,依頼者にとっては,20パーセントでも負ける可能性があるなら,和解した方がいいという判断もあり得る」
という判断だって,あり得るのです。
そういうふうに,
1 依頼者の置かれている状況を理解し
2 なおかつ,判決の予測もおこない,
そのうえで,
3 最終的な判断をする
というのが,和解における弁護士の「考え」なのです。
これは,とても高度な知的判断だと思います。
まさに,弁護士たるものにしかできない判断です。
そういうふうな高度な視点で,弁護修習を観察するならば,非常に得るものがあります。
一方,ボンクラ修習生は,学ぶべき場面で学べないかもしれません。
指導弁護士が,依頼者にとって不利な内容に思える和解内容を,「ここは,これで和解するべきだ」と依頼者を説得している場面があるとします。
ここは,指導弁護士が,どう考えて,「あえて依頼者に受け入れにくいような判断をしているのか」,絶好の学習機会なのです。
ところが,ボンクラ修習生の場合には
「弁護士さんも大変だね~」
みたいに,お気楽ご気楽に,目の前の学習するべきシーンを見逃してしまうかもしれません。
みなさんがそうではないことを祈ります。
教訓
弁護士修習では,パーは,なにも学べない。