どういうビルが良いのか?
どういうビルが良いのか?
都市部の場合、いろんなビルが多くて目移りしてしまうことが多い。
ただ、テナント探しのコツを一つ言えば、
数多くのテナント物件を実際に内覧するのが一番である
多くのテナント物件をみているうちに、テナント物件に対して、勘が働いてくるようになってくる。
「なんとなく、薄気味悪いビル」
「なんとなく、明るい気持ちになるビル」
「キレイだけど、違和感を感じるビル」
「古いけど、安心するビル」
そういうビルは、たしかにあるのだ。
それは、最初は「感覚」というものでしかないが、あとあと良く調べてみると、裏付けとなる事実を発見したりする。
たとえば、「新しいビルなのに小汚い感じがする」のは、あとで調べたら、ビルのオーナーが清掃費用をケチっていたとか、
最初にビルを内覧したときに「なんとなく違和感を覚えた」のは、ビルに入っている会社が筋の悪い会社が多くて、ビルに出入りしている人の雰囲気が悪かったとか、
そういうことは、いくらでもあることだ。
まずは、全ての先入観を捨てて、片っ端からテナント物件を内覧しに行くべきだ。そのなかで、だんだんとテナント物件を見る目がやしなわれてくる。
カタログの紙面だけでは、テナント物件は絶対にわからない。
実際に内覧して、五感をフルに働かせて初めて、直感がわいてくるものなのだ。
最高のテナントの決め方
テナント物件を内覧しているときに、
「ああ、この物件だ!自分は、この物件に入る運命だ!」
と思ったならば、おそらく、それが正解だ。
吉田は、今まで4回テナントを選んでいるが、そういうふうに、「このビルに入る運命だ!」と思えたことは一度だけだ。
それは、吉田が2回目に事務所をかまえた、大阪西天満のトモエマリオンビルだった。
このときには、ビルの玄関を入った瞬間から、
「なんだろう、なぜか、このビルは心地が良い」
という気分がした。
そして、エレベーターで7階に上がって、部屋の内覧をしにいったときは、じつは、前のテナントがまだ使っていたので、部屋の入り口あたりまでしか見ることができなかったのだが、
「ああ、こんな部屋に入れたら最高だなあ」
という、あこがれのような気持ちを感じた。
ただ、賃料が、そのときの自分の予算より少々オーバーしていたので、即決はせずに、その他のテナントを、しばらく探していた。
全部で20~30くらい、テナントを見て回ったが、やはり、トモエマリオンビルで感じたような直感を感じることができなかったので、少々の賃料オーバーには目をつむって、このビルに決めたのである。
もちろん、いろいろと不都合も多少はあったが、毎朝、出勤してビルの玄関をくぐるたびに、上機嫌であった。
ひと言で言えば
好きなビルだと、気分が良い
こういう気分は、なかなか、お金では買えないものだ。
「運命」と言ってもよい、「恋」と言ってもよい、とにかく、そういう直感を感じたのであれば、そのテナント物件を選ぶべきである。その他の数字など問題ではない。
そして、直感を得られなかった、大多数の人が、賃料や築年数、外観、などのカタログをもとに数字を比較して、あれこれ条件面を議論してテナント物件を選ぶことになる。
はっきり言えば、それは、次善の策、というものだ。
築年数
築年数については、カタログ上は、古いよりは新しい方がよいということに、一応はなる。
あまりに古いビルは、なにか暗い雰囲気がしたり、変なニオイがしたり、水道が錆びていたり、トイレが汚かったりして、あまり良いことがない。
ただ、ビルというものは息の長い生物なので、築20年とか築30年くらいならば、普段の管理さえ十分であれば、わりと新築ビルと変わらない外観を保っていることも多い。
さすがに築50年くらいとなってくると、どのビルもくたびれてくるところがあるが、それでも、それなりに使えるものだ。
古いビルにも良い点があり、新しいビルにも欠点はある。それぞれ比較して考えるべきである。
古いビルの良い点
1 ビルの名前が良く知られている。
吉田は3回目の引越で、大阪の梅田駅前の北阪急ビルに移転した。
阪急グループが管理しているビルである。
築年数でいえば40年くらいにはなるが、管理が行き届いているので、古い感じはまったくない。
来訪者にビルの場所を教えるときに、
「北阪急ビル」
と言うと、
「ああ、北阪急ビルなら分かります」
というように、ビルの名前だけで場所をすぐに理解してくれたことが多い。
ときには、
「前は一階に、ポルシェのショールームがありましたよね?」
とか
「前は一階に、お米の展示場がありましたよね?」
などいうように、私も知らない過去のビルの歴史を教わることさえあった。
2 ビルの管理スタッフが場馴れしている
40年もビルの管理を継続していると、管理スタッフに、ビルの運営ノウハウがぎっしり詰まっている。
そのため、何かをするときに、どうすればいいのか、管理スタッフは全て把握してくれているので、キビキビ対応してくれる。
たとえば、
・エアコンが作動しないとき、どうしたらいいのか?
・照明の不具合が発生したらどうしたらいいのか?
・引越のときに机の搬入をどうしたらいいのか?
・トイレの水が流れないときにどうしたらいいのか?
そういう、こまごました問題点について、即座に回答して対応してくれる。
他のビルを使った経験があると、こういう管理スタッフがしっかりしていて、キビキビ対応してくれるビルは、大変に心地がいいものだ。
こういう管理ノウハウの蓄積というものは、実際にテナント物件を使ってみないとわからないところが多い。
3 他に入居している会社を観察できる
そのビルに入居している、他の会社の質というものも、けっこう大事である。
会社の従業員が、そのビルに出入りしているわけだから、ビルの雰囲気に大きく影響する。
質といっても、普通の堅い会社であれば良いのであって、何も有名な会社が入居している必要はない。
逆に、たとえば、
サラ金
詐欺まがいの会社
怖い風体の人が出入りしている会社
何の仕事なのかよくわからない会社
などは、ビルの雰囲気が悪くなるから望ましくない。
新しいビルの悪い点
古いビルの良い点の裏返しである。
すなわち、新しいビルは一般の方に名前を知られていないので、説明するときに時間がかかる可能性が高い。
新しい管理スタッフが、ビルのことを知っているとは限らないので、ビルに不具合があった場合に、機敏に対応できるとは限らない。
管理スタッフのノウハウが蓄積していないので、たとえば引越や家具搬入、内装工事のときに、ビルの許可をもらうまでに時間がかかる可能性がある。
自分が先に入居していると、あとから入居してくる会社が、筋の悪い会社であっても逃げることができない。
ビルの外観
外観に、清潔感があることが望ましい。
築年数が古くても、掃除、メンテナンスにお金を使っているビルは外観がきれいなものだ。
くたびれた感じ、キタナイ感じのビルは顧客が怖がるので、やめるべきだ。
玄関の雰囲気
ビルの玄関の雰囲気は、とても大事である。
良いビルは、玄関を入ったときに、 清潔で明るい感じがするものだ。
顧客にとっても、玄関がキレイだと、事務所に対する信用度が上がる。
逆に、玄関が暗かったり、薄汚かったり、変なニオイがするビルは、やめた方がいい。
また、たとえば、玄関に警備員が常駐しているビルは良い。
安心感がある。
管理が行き届いているかどうか
テナント物件選びで、もっとも重要なことを一つだけ選ぶとすれば、
きちんと管理されているかどうか
である。
「管理」とは何か、ということであるが、つまり、
玄関にチリやホコリ、ゴミが落ちていないかどうか。
廊下の掃除がきちんとされているかどうか。
窓ガラスが定期的に清掃されているかどうか。
床や壁が常に清潔に保たれているかどうか。
トイレが清潔で掃除が行き届いているかどうか。
そういうふうな、日々のメンテナンスのことである。
ここがテナント物件選びで一番大事なところであるが、一方、普通に内覧するだけでは管理が良いのか悪いのかはよく分からない。
そこで、「これは」というテナント物件を発見したら、ひそかに数日、出入りしてみて、廊下を歩いてみたり、トイレを実際に使ってみたりしてはどうか。
とくに、テナント物件を評価するにはトイレを見ると良いという話は良く聞く話である。
というのは、管理に手を抜いているビルは、たいてい、トイレがキタナイからだ。
ビルの名前
短い名前、発音しやすい名前が良い。
例 高橋ビル 阪急ビル
長い名前は顧客が覚えにくい。説明しづらい。
同じグループでビルが複数ある場合、名前が長くなりがち。また、区別がつきにくくなり混同のおそれがある。
例 高橋第二ビル、高橋第三ビル、高橋ビル別館
たとえば、大阪には、「大阪弁護士ビル」というビルがあるが、
第一大阪弁護士ビル
第二大阪弁護士ビル
第三大阪弁護士ビル
第四大阪弁護士ビル
第五大阪弁護士ビル
という、場所がバラバラなビルが5つもある。カオスである。普通の人は「弁護士ビル」とだけ聞いてしまうので、第一だとか第二だとかは、あまり聞いていないことが多い。
また、同じ名前のビルの「新館」「別館」は、かなり高い確率で間違える。
たとえば、大阪には
梅田プラザビル本館
梅田プラザビル別館
という有名なビルがある。なお、「梅田」といいながら西天満にあるということについては不問とする(笑)。
この2つのビルは、しかも、隣り合わせに建っている。そのため、「本館」と「別館」を混同する人が、毎日、続出している。
何十年も同じことが繰り返されているというのに、対策がたてられた様子は、全くない。
オーナー
ビル管理が本業の会社は良い
オーナーが老舗の不動産会社の場合には管理が行き届いていることが多い。
ビルの管理が本業である会社は、ビルの管理にプライドをもっているので、きちんと管理していることが多い。
管理が本業であるから、ビル管理に、一線級の人材をもってくる。
本業が他にある会社は注意が必要
一方、たとえば、電力会社が投資目的でビルの運営もやっている、という会社の場合は、少し注意が必要かもしれない。
というのは、電力会社の本業は発電して、それを送電することであって、「ビルの管理」というものは、電力会社の中では「本業ではない」と見なされるからだ。
そうなると、どうなるかというと、会社の中で、窓際族、リストラ予備軍、という、二線級の人材をもってくる。
そうなると、そもそも人材が劣っているうえに「本業ではないことを嫌々やらされている」という意識があるため、管理にヤル気が出ない。
当然のことながら、ミスが多くなるし、万事反応が遅い。
そういうふうに、ビル管理が本業か、本業でないか、は、けっこう重要な問題だと思われる。
投資ファンド系の会社は要注意
わりと都心の一等地にある有名なビルであっても、 オーナーが投資ファンド系の会社である場合には、私なら選ばない。
投資ファンド系の会社は、投資に対するリターンを厳密に考えるため、管理費にお金を使わない傾向がある。要するに、掃除に必要な人件費を使わない傾向があるのだ。
そのため、場合によっては、新しいビルなのに、薄汚れていることがある。
床や廊下、壁などが清潔かどうか、ちゃんと掃除できているかどうかはチェックして方が良いと思われる。
また、ビルの管理人の前職が銀行員であったりする。
もちろん、銀行員にも優秀な人は多いと思うが、ここで重要なのはビルをきちんと管理することについてプライドをもっているか、ビルの管理に本業意識をもっているかどうかなのだ。
投資ファンド系の会社の余剰人員から人間を出すからこうなるのだが、当然、銀行員がビル管理にノウハウはないので、無能な管理人となることが多い。(もっとも、銀行員には真面目な人が多いので、ビル管理に真剣に取り組めば、良い管理人になることもあるのだが)
本業意識
ここで、「本業意識って、そんなに大事か?」と思われるかもしれない。
しかし、弁護士も自分の胸に手をあててみればわかると思う。
たとえば、弁護士は、裁判に関することや、契約に関することは本業意識があるから、細かいことにでもこだわると思う。
たとえ訴額が数万円の裁判であっても、裁判に勝つか負けるかがかかっているなら、数十枚の書面でも書くであろう。
しかし、その一方で、同じ弁護士が「遅延損害金なんて、半分カットしてもいいよな」「裁判で和解したら、税金がどうなるかなんて、弁護士に聞くなよ?」ということを平気で言ったりする。
銀行員からみれば、元金だって遅延損害金だって、等しく同じお金であり、理由もなくカットしたら大問題であろう。
「税金なんてどうでもいい」などと言ったら、税理士は、 ひっくり返って驚くであろう。
そういうふうに、弁護士は裁判については本業意識をもっているが、お金には本業意識をもっていない、税金には本業意識をもっていない、ということである。
そうだとすれば、ビル管理にも同じことがいえるのではないだろうか?
ビル管理に本業意識をもっていない人は「ビル管理は、どうでもいい」と思っているのである。
個人事業主の場合は人柄による
先祖伝来の土地をオフィスビルにした、というようなケースで、ビルのオーナーが個人事業主の場合はどうか?
わりと多いケースだが、この場合は人柄による、としかいいようがない。
良い場合には、先祖伝来の土地を守るという意識で、ビルの管理を真面目にやってくれることもある。
ときには、人を雇わずに、オーナー自らビルの掃除をしていることもある。
こういう真面目なオーナーのビルは、築何十年でも、きれいである。
病的なきれい好きのオーナーの場合には、入居した当初は、少しでもビルを汚すと大声で怒られたりして、驚くこともあるが、だんだんとオーナーの価値観を理解すれば付き合えるようになることもある。
一方、オーナーのなかには、人の好みが偏っていたり、過度に干渉してきたりする人もいる。
多くのオーナーは、普通に付き合えるとは思うが、変わった性格の方の場合には、ビジネスのように合理的に話をすることが難しいことあるかもしれない。