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依頼者の権利を時効にかけてはならない

Trouble

弁護士

私が司法研修所を卒業するときに、民事裁判教官が、弁護士になる人のために、実務家として、一言だけ助言しておきます、と言って
「依頼者の権利を時効にだけはかけてはなりません」
と言いました。
「弁護士の仕事をするうえで、ミスは発生する可能性があります。しかし、たいていのミスは、なんらかの正当化、言い訳、がつくものです。しかしながら、時効だけは、言い訳をすることが全くできません。したがって、明白なミスになります」
いま、弁護士となって、つくづく思います。民事裁判教官は、大変に有益な助言をしてくれた、と。

とくに個人の依頼者から相談を受けた場合には、過去に、なんらかの権利が発生していたとしても、かなり時間をおいてから相談にこられる方がいます。
私が経験したなかでは、50年前に詐欺でだまされたという件について、
「よくよく考えたが、やはり納得がいかないので」
ということで、ご相談にこられた方がいます。
考えるのはよいことですが、考えすぎです。
そこまで長くはないとしても、
「交通事故に遭って、被害を受けました」
「いつころですか?」
「2年と10カ月前…くらいです」
というケースは、けっして、まれではありません。
交通事故のような不法行為によって発生した債権は3年で消滅時効にかかりますから、事故から2年10カ月たっているということは、あと2カ月で消滅時効にかかってしまう可能性がある、ということです。
こういう場合には、ただちに、民法153条にもとづき「催告」をおこなう必要があります。
「催告」が、無事に相手方に到着すれば、その時点から6カ月間は時効は完成しません。

ただし、「催告」は時効を「停止」させるだけであって、「中断」はしません。
ですから、6カ月以内に、裁判を起こすなど、時効の「中断」となる法的な手段をしないといけません。

このあたりは、司法試験の勉強のなかで、くどいほど勉強したところだと思いますが、世間では、「催告」をし続ければ、永遠に時効にならない、という、誤った認識をしている人が大変に多いのです。

弁護士のなかに、ごくまれに、せっかく時効を停止させるための「催告」をしておきながら、6カ月以内に裁判を起こすことを忘れてしまって、結果的に、依頼者の権利を時効にかけてしまう人がいるのです。
これは、言い訳のしようのないミスでありますから、依頼者から損害賠償を受けることになります。

くれぐれも、
消滅時効には気をつけること。あぶなければ「催告」を忘れないこと
「催告」をしたあと、6カ月以内に裁判を起こすことを忘れないこと
に、気をつけてください。